暗い書庫の中。

散らかった本の整理をする。



ろうそくに灯した橙色の明かりだけが部屋を照らす。

ずらりと並んだ本の紙や本棚の木材の香り。ろうそくが溶けていく匂い。

天窓から見える星や月。

6月の夜に新緑が創り出す、湿り気を帯びたどこか瑞々しい空気。




こんな空間は嫌いじゃない。

けれど、今は、居たくない。

今は・・・・。






赤月華  sekigetsuka              












エドと私は部屋に二人で居る。

ただただ無言で・・・何も言葉を交わさないで、黙々と作業を続けていく。




いつからだろう、二人きりになると会話がもたなくなったのは。

いつからだろう、こんなに距離を感じるようになったのは。












明日にはエドはまた旅に出る。



何度経験しても慣れない別れ。

帰って来るたび、傷だらけになって帰ってくる機会鎧を―――エドの体を―、診るたびに 胸が痛い。

『会えないこと』『傍に居ることができないこと』




・・・・『次に会える保障が無いこと』・・・。




次に会える保障は、いつの別れにも存在しなかった。

あの日から。









エドは私に合わせてか、何も言わなかった。







本をただただ並べて重ねてく――。





ふと気がつくと、自分の影がエドの近くにあった。



傍に居るのかと驚いて、はっと振り向くと、エドは部屋の離れた所にいた。







「・・・」

――――――空虚感。






いつも感じる距離。



この距離を埋めたくて、埋めたくて。もがいてる。







・・・・・。




ゆっくりと自分の影とエドの影の唇を重ねながらそっと目を閉じた。



まぶた越しに見えるオレンジの明かりがすごく切なくてやさしかった。
















なんか、暖かい。

そう思ってゆっくり目を開けたら、エドの顔が目の前にあって。

暖かいと思っていたのはエドの唇で。






エドが静かに唇を離しながら静かにゆっくり目をあけて、そして呆れ顔で放った第一声・・・。




「何してんの、お前。」








「何してんのって、それはあんたのほうでしょーがっ!!!何すんのよいきなりっ!!!」






驚いて、大きく退きながらわたしは言った。

その拍子にせっかく整えた本がばさばさと落ちてろうそくの火が揺らいだ。

いや、確かに影に向かって変な真似してたけど、エドのとった行動のほうが意味が分からない。

                                                  

「あ゛ーえー・・・・・っと。・・・」




「何よ」




「なんか。したかったから・・・。」

瞳をそらしながらエドが言ったのはそんな言葉。

・・・・したかったら誰にでもキスすんのかい。





「・・・・・」

「何よ?」




「・・・しばらく、あえなくなるし。」

そう言って、うつむき加減にこっちを見る。

――――――赤い頬。














『確固たる物が欲しかった』





私の気持ちを明るく照らす。




優しく・・・撫でる様に・・・慰める様に・・・。

淋しくないといえば嘘になる。

けれど彼もそう感じていてくれていた?












会うたび、会うたび、変わる彼に苦しくなるけれど、

前よりも、そう、前よりも・・・。君を好きになっていく。

想いが重なる度に、すごく幸せな気分になるんだ。







想いも、この影と同じ。気持ちを照らせば・・・重ねれば、遠くでもつながってられる。

全て、私達次第。




「ねえ、もう一回してみよっか?」




会うたびわたしもあなたも変わっていく。

気持ちも変わっていく。

けれど、それはマイナスばかりじゃなくて、きっと・・・。

END

inserted by FC2 system